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豊かな閉塞感

 ずっと疑問だったことがある。なぜ地方に住む人々は「地元は田舎で何も無い」と口々に言うのか。実際には何も無くはない。国道沿いには大型店舗が並んでいる。スーパー、衣料品店、靴店、眼鏡屋、ホームセンター、薬局…。生活に必要なものは全て揃う。でも皆「何も無い」と言うのだ。
 そしてやっと気がついた。生活な必要なものは全て揃う。だけどそれだけなのだ。揃うだけでは心は満たされない。店舗の種類がたくさんある、隣の駅へすぐに移動する、私は何を思うでもなく、こうして自分の選択肢を広げていた。これは恵まれていたのだ。豊かさとは広がりのある選択肢が1つでも多く持てる環境なのだ。そんなことにやっと気づいた。

 

たくさんの店舗が並ぶ、何も無い国道。日本にはそんな道がどれだけあるのだろうか。
ここは、何でもあるのに何にもない。

 

 

 

 

 私は巨大な団地にいた。コンドーム自販機を求めて歩き、団地内の薬局を訪れたのだ。巨大過ぎる団地の一棟一棟にはナンバリングがされている。しかし初めて訪れた私には、ナンバリングの法則が全く分からない。9-4ってなんだ。1-1がどこかにあるのだろうが、どこだ?
 もし友人がここに住んでいて、自宅に招かれたとしても私には絶対たどり着けないだろう。大きすぎて団地の全貌が全く分からない。薬局を探す途中に、さっき大きな病院もあった。学校も。メトロポリスとかメガロポリスとか、そんな言葉が頭に浮かぶ。団地の中には小さな商店街もある。子供達の遊ぶ声が響き渡っていた。

 

 これまで何度か団地には来たが、それらは終わりの始まりの様な雰囲気を纏っていた。この巨大団地は全ての部屋が埋まっている訳では無いが、たくさんの人々が今住んでいる。まだまだ現役の団地だ。私の前には異国の言葉を話す親子連れが歩いていた。巨大団地に商店街、病院、学校、子供達、異国の言葉。出来すぎたダイバーシティに思えた。私は黙々と団地の中を進む。団地の住宅達が黙って私を見下ろしていた。

 歩いていく内に私は団地の一棟一棟が肺胞に思えてきた。ここが肺胞なら住人は血液だ。全貌が全く分からない団地全体が肉体だろうか。だがこの肉体は土地に横たわるだけで、決して動かない。だけどこの肉体を保つには血液は肺胞から肉体の隅々を循環しなければならない。住人でない私は肉体に入り込んでしまった異物だろうか。

 

 並ぶ住宅。沢山の洗濯物がベランダにそよぐ。この団地にはショッピングモールと大きなスーパーも隣接している。これだけの人が住んでいるなら企業の誘致だってしやすかっただろう。この団地と団地内の商店街と、ショッピングモールとスーパー。団地付近で何でも揃う。団地付近だけで全てが完結できる。きっと団地を作った人々はそんな街を作りたかったはずで、この団地はかなり成功しているケースなんじゃないかと思う。
 この巨大団地がモデルケースだとして、今はまだ人々が住みに賑わいを見せているが、この建物自体はそう新しいものでは無いのだと団地の片隅、片隅に見て取れる。この肉体も永遠ではないはずだ。
 団地内を走る道路には隣接したスーパーに向かう車が列を成している。徒歩で同じ道を歩くのは私以外いなかった。

 団地を抜けて、私はショッピングモールで食事を摂った。このショッピングモールへ電車に乗ってやってきた人々は少しおしゃれをしている。地元の子供達は少し良い感じのジャージでファストフードを頬張る。そしてここでも異国の人々が買い物をしていた。
 ショッピングモールの中を子供達を乗せた機関車がゆっくり走っていた。付き添いの係員が道行く人に笑顔で手を振る。祝日の午後、過ごしやすい気候、ショッピングモール。幸福を写したポストカードのようだ。機関車には様々な国の子供達が乗っていた。


 嗚呼、本当にここは何でもある。

 

 だけど永遠ではない。ほんの少し前までイオンモールができると地元の人々は喜んでいた。だけど今ではイオンしかないと言う。何でもある国道は何にもない国道になった。何にもない国道はどこにも繋がっていない。
目の前にはポストカードのような光景があるのに、私は居心地が悪かった。何でもあるのに何にも残らないこの感じは何なのだろう。確かにこれは豊かさなのに。この豊かさを慣れと飽きでくすませてしまったか。   いや、それにしても何も無い。
「何でもある」がもたらす「何にもない」は思いの外、底が深い沼のように思えた。何でもあるのだから、ここに留まることだっててきる。外を見なくても生活できる。だけど私にはそれは横たわる肉体と共に深い沼に静かに沈むように思えるのだ。私は席を立ち、駅を目指した。ここは全てがあり過ぎる。

 

 この巨大な肉体は横たわるだけ。決して自ら動くことは無い。今日も血液は肉体の中を循環している。


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